(魅力紹介)

歴史が人をつなぐ挑戦のまちー深谷市ー

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    ※本記事は、埼玉県にまん延防止等重点措置が適用される以前に行なわれた取材をもとにしております。

    レンガ造りのJR深谷駅駅舎の前には、幅の広い道が広がります。

     

    深谷のまちのことを知ってみたい!いろいろ回りたいと思いつつも、まっすぐ歩けなくなるほどの強い風。

    歩きたいけど早くどこかに入りたい、と思った矢先、目の前に煙突のようなものが見えてきました。

    近くまで行くと、どうやらお店だそうで、杉玉が店先に吊るしてあります。ここは酒屋さんかな?と思いつつお邪魔してみました。

    日本酒がつなぐ、深谷の美食 ー藤橋藤三郎商店ー                      

    お店に入ると、ストーブの、どこか落ち着いてしまう暖かさ。ついつい息が出てしまいます。

    すると、店頭にいらっしゃった方が「風強いですよね。観光でいらっしゃったんですか?」と話しかけてくれました。この方は藤橋めぐみさん、ここ藤橋藤三郎商店の女将だそう。

    ここでは煙突に描かれた「東白菊」という日本酒を中心に製造しています。そのほかにも渋沢栄一らしき人物が描かれたラベルなど気になる日本酒がたくさん。

    日本酒が好きな私は、店内のさまざまなラベルに目を奪われて、どれを買おうか迷っていると藤橋さんがそれぞれの日本酒の説明をしてくれました。

    「最近はやっぱり渋沢栄一関連のお酒が人気です。ものによっては売り切れているのですが、この『栄一翁』は人気ですね。」

    ―たしかにこのラベルはお土産にも買っていきたくなってしまいますね!

    「あとは、これは大河ドラマ前からあるんですけど『忠恕』っていうお酒。渋沢栄一が唱えた言葉が由来です。」

    ―さすが深谷ですね。渋沢栄一に関するものがこうもいっぱいだと何にするか迷います…

    そう思わず口にしたところ、「今日電車で来られたのなら試飲してみます?」とまさかの提案。

    今回は電車で来たこともあり、お言葉に甘えて試飲させていただきました。試飲させてもらったのは写真の左から「蔵出し新酒」「特別純米酒 東白菊 渋沢栄一」「純米大吟醸 栄一翁」「原酒にごり酒」の4種類。お酒はわりと辛口なのがポイント。どれもとてもおいしいお酒でした。

    「蔵出し新酒」はお米の旨味が感じられつつも、後味がキリっとまとまるバランスのいいお酒。熟成されたからかとても呑みやすいです。

    「特別純米酒 東白菊 渋沢栄一」は「青天を衝け」の記念ラベル。尊王攘夷の志士から幕臣、実業家と転身を遂げた栄一の姿を表すような二面性が特長だそう。

    こちらも後味のすっきりさはありつつも、よりコクが味わえるお酒。

    そのあとは、大人気「純米大吟醸 栄一翁」。こちらは精米歩合50%ということもあり、お米の華やかな香りが特長です。ただ、純米大吟醸によくあるもったりした感じではなく、意外とキレもあるところもポイント。

    最後は、藤橋さんも好きな「原酒にごり酒」。原酒というだけあって19度と度数は高いですが、シュワシュワ舌が痺れる感じがたまらない素敵なお酒。原酒特有の力強さをいやらしく感じさせず、ぐいぐい吞めてしまいます。

    試飲させていただいたあと、藤橋さんにお話を伺いました。

    ―日本酒の酒蔵がある、ということは水が綺麗な場所だと思うのですが、深谷は水が綺麗なのですか?

    「深谷は荒川と利根川に挟まれているところなので、水が豊富なんですよね。」

    ―深谷市は水に恵まれた場所なんですね。他にも深谷には酒蔵があるのですか?

    「はい。ここも含めて全部で三つの酒蔵があります。もともとは4つあったのですが、1つ減ってしまい、今では3つです。」

    ―やはり水が豊富な地域だからこそ酒蔵もたくさんあるのですね!

    「なくなってしまったところは「七ツ梅酒造」というのですが、ここは今は映画館などとして活用されているんですよ。」

    ―もしかして「深谷シネマ」ですか?

    (※同じ特派員のさんちゃんが取材してくれています!こちらもぜひご一読ください!)

    「そうです!そうです!ぜひそちらにも行ってみてください!」

    ―この後行ってみたいと思います!話は変わるのですが、ここでのお酒造りはいつ頃から始まったのですか?

    酒造りが始まったのは、嘉永元年(1848年)。渋沢栄一が生まれたのが天保11年なので、渋沢栄一が8歳の頃から酒造りを始めているんです。」 ※渋沢栄一が生まれたのが天保11年(1840年)

    ―大河ドラマがあったこともあり、渋沢栄一が8歳の頃と言われると、なんだか身近に感じられるような…でも今から180年近く前のことだと聞くと、遠い昔に感じられるような不思議な感じがしますね。

    東白菊はじめ、ここのお酒は深谷駅の近くで飲むことができるのでしょうか?

    「よく聞いてくれました!」

    ―こちらは?

    ここのお酒が飲める周辺のお店をまとめている、私が作ったマップです。

    ―藤橋さんが作られたんですか!とても細かくて驚いています。

    どうしてここまで細かい地図を作ろうと思ったんですか?

    「渋沢栄一が大河ドラマで取り上げられて、深谷に人は来るようになったんですけど、どうしても来られた方が駅前から大河ドラマ館、渋沢栄一記念館などに直接行ってしまって。それもいいんですけれど、駅前のお店も楽しんでもらえたらと思って作ったんです。」

    ―そういった背景があったんですね。実際、この地図を見て、こんなにも深谷にはワクワクするお店があるんだと知って、早くお店に行きたくなっています() 今日はどこに行こうかな。

    ふっかちゃん横丁はどうですか? ここは屋台村で、いろいろな店が集まっているんです。どんなお店に行きたいか決めかねているのであれば、ふっかちゃん横丁に行ってみて好みのお店を探すのもいいですよ。」

    ―『ふっかちゃん横丁! さすが、深谷ですね…

    「『ふっかちゃん横丁』から独立したお店もあって、たとえば地図にもある『山人(さんと)』さん。ここはおいしいお寿司を出しているんですけど、『ふっかちゃん横丁』から独立したんです。」

    ―深谷にかかわりたい方が気軽に関わることができる場所なのでしょうか? とりあえず行ってみます!

    いろいろ教えていただき本当にありがとうございました!

    「もしよければお店の裏の煙突見ていきますか?奥から見ると、夕日がバックになることもあってとてもきれいなんですよ。」

    ―いいんですか!いろいろ教えていただいたうえに、まさか近くで見させていただけるとは…感激です!

    お言葉に甘え、裏手に回らせていただき、煙突を見に行きます。

    ―これは井戸ですか?

    「そうですね。」

    ―今も使っているんでしょうか?

    「使ってますよ。ポンプを使って今は使っています」

    ―それにしても立派な煙突ですね!〇の中に上、と入っているのは屋号でしょうか?

    「そうですね。ただ、先代から受け継いで使用しているものの、由来がよくわかっていないんですよね()

    「あとレンガは深谷のレンガを使っています。」

    ―深谷のレンガは渋沢栄一が設立したレンガ工場で作られたものですよね。ここにも渋沢栄一が関わっていると、彼が生活レベルで深谷や日本を支えてたような気もしてきます。

    「ここは入れないですけど防空壕ですね。」

    ―防空壕!

    「熊谷に空襲があった際に、このあたりも空襲があったんです。」

    ―それもあって地図にあるような整然とした地形なんですね。

    「蔵は今でも使用していらっしゃるんですか?」

    ―今は日本酒を貯蔵するのに使っています。

    などなど、藤橋さんからさまざまなことを教えていただきました。

    もともとは行田市に住んでいた藤橋さん。都内で働いてからこちらに嫁いできた方ですが、大河ドラマで来られた方に深谷を説明するためにいろいろなことを勉強したのだとか。

    しかし、知識をひけらかすわけではなく、深谷に来てくれた人に、いかに深谷を楽しんでもらうかという素敵な想いを感じさせる、朗らかな方でした。

     底知れぬ深さーふっかちゃん横丁ー                           

    この日は藤橋藤三郎商店にお邪魔したのも遅かったので、もうしばらくして『ふっかちゃん横丁』に行ってみます。『ふっかちゃん横丁』は駅から徒歩で5分くらい。

    横丁の入り口には『ふっかちゃんショップ』もあり、ここではレンタサイクルも行なっているみたいです。ここを起点に昼は市内を回ることができるし、夜は自分の好きなお店で楽しめそうです。

    この日は『ふっかちゃん横丁』の奥にある、『うまいもの研究所』にお邪魔してみました。

    観光で来られている、周辺のホテルからの方が多いと思いきや、深谷に住んでいる方が大半を占めるアットホームなお店。

    メニューは黒板に書いてあるほか、お姉さんに頼むといろいろその日ある材料の中で作ってくれます。

    今回頼んだのは、「深谷ねぎ餃子」「深谷ねぎ塩ホルモン」、それにお客さんイチオシの「チキントマト煮」

    「深谷ねぎ餃子」は皮にねぎの緑色が。でも外はパリッと。そして中は肉の旨味でジューシーなところにネギのフレッシュさと甘みがあり、餃子の味を深めてくれます。

    「深谷ねぎ塩ホルモン」は胡椒や辛子が振られたホルモンとネギの炒め物。

    ホルモンは臭みがなくて、ついつい箸が進むおいしさ。ネギは熱せられているものの、シャキっとした食感に、深谷ねぎの魅力の一つでもある甘さが広がります。

    そして、これらには「東白菊」を合わせます。やはり、地元の食材には地元のお酒。

    お米の旨味がありつつも、最後はキュッと辛口に締まるので、ホルモンやネギにぴったり。

    深谷や周辺の埼北地域の魅力をお姉さんと語り合う素敵な時間を過ごすことができ、すっかり深谷のファンとなりました。

     『ふっかちゃん横丁』に込められた想いを知るー深谷商工会議所ー             

    それでは、この『ふっかちゃん横丁』、どのような目的で作られたのでしょうか?

    翌日、運営事務局のある、深谷商工会議所にお邪魔し、お話を伺いました。

    ―昨日、「藤橋藤三郎商店」の藤橋さんに勧められたこともあり、『ふっかちゃん横丁』に初めて伺い楽しい時間を過ごすことができました。『ふっかちゃん横丁』の入り口には、「あなたの夢の実現をサポートします!」という看板があったのですが、どのような目的で『ふっかちゃん横丁』は作られたのですか?

    「大きくは二つあります。まちなかを活性化させる目的(中心市街地活性化)と、何かチャレンジしたい方を応援する目的(創業支援)ですね。」

    ―創業支援だけではなく、中心市街地活性化も目的なのですね。『ふっかちゃん横丁』はどれくらい続いている取り組みなのでしょうか?

    現在8年目の取り組みとなっています。カウンター席しかないお店ですが、そこで資金を集めたり、(店舗経営のための)ノウハウを身に付けたりすることで、独立される方もいらっしゃるんです。」

    ―たしかにアットホームな空間で、お客さんとの距離が近い中で、一経営者として飲食店を営むことで一気にいろいろなことを学べそうですね。8年目の取り組みということですが、これまでどれくらいのお店が独立されたのでしょうか?

    全部で5,6軒くらいですね。

    8年で56軒はすごいですね!

    「たとえば、お寿司屋さんの『山人(さんと)』さんは3年ほど出店して、そのあと独立されたんです。いろいろなことに真面目な方で、お店のファンであるお客さんを、しっかり固定して独立されました。」

    ―昨日も「うまいもの研究所」さんにお邪魔したのですが、お店のファンで、料理もそうですが、お店の雰囲気をも楽しもうとするお客さんが多く感じられました。そういった方を大切にするのもポイントなのですね。

    『ふっかちゃん横丁』で出店される方は深谷市の方で、独立するための準備をしたい、という方なのでしょうか?

    「基本深谷市の方が出店していますが、すべてのお店が独立への準備をしたいかというとそれが必ずしもそうではないです。たとえば、独立したい板前さんが修業する場合もありますし、既にほかでお店を持っている方がアンテナショップのように発信拠点として二店目をここで展開することもあります。」

    ―さまざまな形でチャレンジできる場所なんですね。

    出店したあと何年以内に独立しなければいけない、など出店する期間に区切りはあるのでしょうか?

    「基本は3年で一区切り、としています。ただ更新は強制ではないので、引き続き出店される方もいらっしゃいますね。」

    ―そのあたりも較的自由にできるところがチャレンジしやすいですね。

    ところで『ふっかちゃん横丁』はどのような人をターゲットにしているのでしょうか?

    『ふっかちゃん横丁』には気軽に少人数で来てもらうことを考えています。カウンター席しかないので、宴会はできません。でも、だからこそ二次会で来たりとか、少人数の女子会で使ったりとかして楽しんでほしいと考えています。夏にはお店の外でも飲むことができるので、それも人気ですね。」

    ―外でも飲めるのはいいですね!

    「ただ、やはり完全な観光地でないので、周りには人が住んでいるマンションや家があります。たとえば、22時以降はお店の中で飲んでもらうなどしていますね。」

    ―やはり生活に密着しているからこそ、周囲の人との関係も大切にしているのですね。

    最後に大河ドラマは終わりましたが、深谷のこのまちをどのように楽しんでもらいたいかなどあればお聞かせください。

    「大河ドラマは終わりましたが、新しい大河ドラマには深谷市出身の武将(畠山重忠)も取り上げられ、まだまだ人は来ています。『ふっかちゃん横丁』だけではなく、ミステリーツアーやまちなかさんぽ、レンタサイクル、そして着地型観光などさまざまな取り組みを行なってきました。コロナ禍でなかなか自由には動けないですが、まちなかをにぎやかにしていきたいと思います。」

    ―お忙しいところお話を聞かせてくださり、ありがとうございました。

    何かにチャレンジしたい方が気軽にチャレンジできる、そんなシステムも、ヒトもいてくれるまち、それが深谷市ではないかと、今回の取材を通じて感じられました。

    渋沢栄一の精神はやはりしっかりと深谷の地に、深谷の人に根付いているように感じられます。もっともっと知らない深谷、ワクワクする深谷の人に会ってみたいと思えるまちでした。